個人で不動産業を営む女性の屋号である「空家プランニング」のアートワークである。ロゴデザイン、名刺、またウェブサイトのデザインイメージを提案した。

彼女が取り組む不動産業というのは、一般的にイメージされる業態とは異なるものであった。建物を単なるハコとして捉えるのではなく、使われなくなった建物から未来につながる価値の原石を見いだし、ソフト面の提案も加え、次なる使い手に手渡すことを生業にしている。近年どの街でも深刻化している空家問題だが、彼女はこの問題に対して「まちづくり」の切り口で解答を模索し続けている。

彼女の視点である「微かに放つ信号」をテーマにデザインに取り組んだ。幾何学的な線がばらばらと散らばる中に、手書きの文字を添えたロゴ。一見すると記号のように見えるが、微かに「空家」という文字を形成している。線が突き抜けていたり、一画足りなかったり、完璧な文字ではないが視認できる。これが空家の現状である。言葉の印象は文字の意味と等価ではない。人の手が加わり完成することで、空家という寂しげなワードがポジティブなものに変換できるよう意図してデザインした。そして、以下の言葉を添えた。

「空家」とは、人の住んでいない家のことをいう。
寂しい印象を与える言葉である。
ただの壁やただの床、ひとつの塊となって静かに息を潜めている。
使われることなく壊されるものたち。
しかし、人が使うことで活きる場所になる。
そこには想いがあり、使う人が必ずいる。

「空」という文字は、そらと読める。

名刺はブルーグレーをテーマカラーとし、表面は名前とロゴの視認が容易なように、裏面はショップカードとしても使えるよう情報を整理した。ウェブサイトは彼女の建物への思いを綴った文章をトップに据え、街のあらゆる情報を収集すべく日々奔走する姿から、自転車をモチーフに手描きのイラストを添えた。

空家という言葉が、いつかまちが楽しいものへ代謝するためのポジティブな意味となるよう、彼女の挑戦を応援したい。