写真家・黒岩正和氏のための事務所へのリノベーションである。

京都で写真事務所を構えている黒岩氏から、地元和歌山の海南市に拠点を増やす予定で古い民家を買ったので見て欲しいと連絡をうけた。海南市の古い家屋が残る静かな住宅街に民家はあった。年配の方が多く住んでいることで空き家が少しずつ増えている地域だ。

建物は築100年くらいの木造2階建で田の字プランのシンプルな住まいであったが、幾度となく増改築されていた。近くにスーパーマーケットがあることもあり、前の通りには周辺に住む人がちらほらと行き交う姿が見てとれた。いつもどこかから井戸端会議の声が聞こえる、そんな現場だった。

黒岩氏からは写真事務所ということでデスクワークと簡単な撮影できるスペース、機材・在庫などを置く倉庫の機能を要望された。低予算でのプロジェクトであったため、使えるものは再利用した上で設えは最低限とし、工事範囲も1階の南側に絞った。通りに面して接地している立地的特徴を活かして建築は街と繋がる出入口と考え、既存開口を大きな木製ガラス窓に刷新することで、より街に開き溶け込むことを目指した。玄関から入ってすぐの台所と物置だった部屋の床を取り払い、バイク置きと倉庫など多目的に使える土間にした。外壁は補修を余儀なくされたため、東面のもとあった赤い板壁を踏襲し、全体に同色のガルバリウム鋼板の波板を施した。また、公私ともに交流のある地元の鍛冶屋のHOUSEHOLD INDUSTRY武田氏にデスクと表札・ポストの制作を依頼した。

これからも段階的にリノベーションして手を加えていき、街の人との交流の場としても機能して欲しい。そして黒岩氏のこれからの活躍を期待している。

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