和歌山県田辺市にある元鉄工所跡をクラフトビールの醸造所にリノベーションするプロジェクトである。

ビール会社から独立し、田辺でクラフトビールのブランドを立ち上げるので見て欲しいという依頼から始まった。見せてもらった鉄工所跡は、大きな倉庫といった趣きで、半分が2階建てで半分が天井高さ7mを越える吹抜けで構成されていた。その中にビールの醸造エリアと瓶詰め・梱包などの工房エリア、試飲するカウンター、将来飲食が可能な客席などのサービスエリアが求められた。そして仮眠がとれる宿直室も必要だと言う。ビールの製造の仕方を一通り教えてもらい、その長い道のりと大変さに頭が下がった。またクライアントのビールへの実直な向き合い方を知り、この壮大なスケールのプロジェクトに関わることができる大きな喜びを得た。

人類がつくった物の中で最も遠くまで飛行し続けている物体、NASAの惑星探査機「VOYAGER(ボイジャー)」。現在も活躍しているというこの探査機の名前から付けたというクラフトビールブランドは、大きなロマンとともに、チャレンジし続けることだろう。デザインコンセプトは、アットホームでどこか懐かしい牧歌的なブリュワリー。「田舎で本気で宇宙開発を目指す伯父さんがいる。」牧歌的で極めて普通。特別なことはしない。でも生き方含め表現するものすべてがかっこいい。クライアントのその人柄を投影したかのようなそんなデザインを目指した。

竣工後、1年とちょっと経ってからMUYAの撫養氏に写真撮影を依頼した。彼の撮影のコンセプトは「一人の夢破れたおっさんがふと立ち寄ったここを見て、もうちょっと俺もがんばってみようかな。」とのこと。奇しくも写真からは牧歌的で泥臭く、その場の空気が匂ってきそうな気がした。

VOYAGER BREWING
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