大阪府八尾市に建てられたご夫婦とお子様2人のための木造2階建ての住宅である。
八尾市は大阪府の東部に位置し、市の東側の高安山麓は造園業を家業とする家が多く、クライアントもそのひとりだ。仕事でお世話になっている縁で住まいの依頼をいただいた。
敷地は、高安山の中腹にあり景色のいい高台にある。天気がいい日は天王寺のあべのハルカスが見えるほど。近くには西信貴ケーブルが走り、東熊野街道が目の前を通る。隣地は神社ということもあり境内に植えられた大木の木漏れ日が気持ちいい。北と西側は野面積みの石垣を残している。南側隣地は田畑として使用され、先人によって建てられた平屋の家屋は解体され、中低木が植えられた庭が放置さえた状態で残っていた。
周辺環境を活かして、家のどこにいても庭や緑を感じられるような住まいができないか。道路沿いに植わっていた大きな桜と南の庭にあった柿の木やいくつかの植物は剪定し残こすことを決めた。建築は、必要な用途とサイズをシンプルに積み上げていくようなプロトタイプのような住まいを目指した。予算と必要面積から割り出して、外断熱を採用し、内装は構造材や間柱を現し、内外装ともに簡素な仕上げとすることで工期短縮を計った。壁や間仕切り・建具を減らし、空間を分節するのには、採光を確保できさまざまな使用環境に適応できるカーテンを採用した。
2階には隣家の隙間から大阪の風景を望むことができる正方形の窓を、子供達の勉強机から隣の神社の大木を借景として見ることができる大きな窓を、南側には庭を望めるよう約7mの横長スリット窓を開けた。
また、リビングと玄関を囲うように大きな軒下空間をつくることで室内が守られ、庭への視界を確保するとともに、採光を適度にコントロールすることができた。軒下空間は、子供達の遊び場になり、植物の手入れやアウトドアを促進させる物置にもなった。
工事は完成を目指すのではなく、未完成でもよしとする。建築は必要な機能と設えだけとし、クライアントによるDIY工事にも期待した。子供達の成長とともに住まいは大きく変化していく。必要なものが増えたとき、またはいらなくなったとき、建築や空間がフレキシブルに対応できることを目指した。
写真は住み始めて1年ほど経過した状態で撮影させてもらった。ペットが増えていたり、竣工当時にはなかった塀や棚ができていて、まだまだ作りたいものがあると聞いて嬉しくなった。そのときの思いはビフォアアフターに記した。まさに住みこなしの空気感を感じることができた。設計冥利につきる出来事であった。綺麗で洗練されたものが評価されがちな社会の中で、私たちはなにか違うものを目指しているのかもしれない。掴みとれないものを無我夢中で探しつづけてきたが、そんな思いのひとつが形になった瞬間だった。